大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟家庭裁判所 昭和31年(家)2492号 審判

申立人 田部五郎(仮名) 外一名

相手方 田部セイ(仮名) 外二名

主文

一、本籍新潟市○○町○○六五番地被相続人亡田部廉平の遺産をつぎのように分割する。

(一)  新潟市○○町字○○六〇番地二、同番地一一にまたがつて所在する、家屋番号同町六七番、木造瓦ぶき二階建工場兼居宅一棟(建坪六二坪七合五勺、外二階五二坪二合五勺)を分割して、同家屋階下八畳間(その南西側に接続する板敷廊下をふくむ。)とその北西側隣室六畳間とを区劃する垂直の平面(その延長は、同家屋正面玄関の道路面中央の柱の中心線に至る。)をもつて同家屋(階上をふくむ。)を二個に分割することとし、その北西部分は申立人両名の共有(その持分、各二分の一)とし、南東部分は相手方三名の共有(その持分、セイ二〇分の一一、元市二〇分の五、とみ二〇分の四)とする。

(二)  新潟市○○町字○○六〇番二宅地四三坪九合六勺を、前記(一)に表示した家屋の境界線(延長線をふくむ。)をもつて二個に分筆し、その北西部分(約一八坪六合九勺)を申立人田部五郎および申立人田部進の共有(その持分、各々二分の一)とし、南東部分(約二五坪二合七勺)を相手方三名の共有(その持分、セイ二〇分の一一、元市二〇分の五、とみ二〇分の四)とする。

(三)  新潟市○○町字○○六〇番一一宅地四五坪三合六勺は、相手方三名の共有(その持分、セイ二〇分の一一、元市二〇分の五、とみ二〇分の四)とする。

(四)  別紙遺産目録「動産の部」に掲げる預金、株式、電話加入権および家財道具は、全部相手方セイが取得する。

(五)  相手方セイは申立人五郎に対し金一六八、一六四円、申立人進に対し金一一三、〇六四円の支払義務を負担する。

相手方セイは申立人等に対しそれぞれ上記金員を支払うべし。

(六)  相手方元市は相手方セイに対し金八三九円の支払債務を負担する。

(七)  相手方とみは相手方セイに対し金二五、四七〇円の支払債務を負担する。

二、本件手続費用中、鑑定料合計九、五〇〇円のうち六、四〇〇円は相手方三名の連帯負担とし、その余は全部申立人両名の負担とする。

理由

本件調査の結果によれば、以下のことが認められる。

一、被相続人田部廉平は昭和二九年九月○日新潟市○○町○○病院で死亡したが、同人の相続人は

養子 申立人田部五郎(法定相続分六分の一)

養女 申立人田部進(法定相続分六分の一)

妻 相手方田部セイ(法定相続分三分の一)

長男(母相手方セイ)相手方田部元市(法定相続分六分の一)

長女(母相手方セイ)相手方田部とみ(法定相続分六分の一)

の五名である。

二、被相続人はもと新潟市○○町で○○製造業を営んでいたものであるが、戦争中一時中止し、昭和二〇年一一月ごろ同市○○町の土地家屋を買い入れて同所で○○の製造を再開し、昭和二五年二月一七日その営業に木材の販売を加えて会社組織にあらため、株式会社田部製作所(資本金五〇万円、本店新潟市○○町六五番地、昭和二八年五月五日同市○○町一丁目二番地三に移転)の代表取締役として事業を経営していたもので、同人の遺産は、別紙目録のとおりであり、その価額はつぎのとおりである。

(一)  字○○六〇番地一一および同番二

宅地二筆合計 八九坪三合二勺

この価額 一〇〇万円

(昭和二九年九月○日当時の価額九〇万円)

(二)  家屋番号 ○○町六一番

家屋一棟 建坪 六二坪七合五勺

外二階 五二坪二合五勺

この価額 一二九万円

(ただし、この価額は、本件審理の結果に照らし、家屋の分割を予想してその合計価額をここに計上する。)

(昭和二九年九月○日当時の価額一一五万円)

(三)  ○○銀行預金 六、四〇八円

(四)  ○○銀行預金 三三円

(五)  ○○銀行株式八〇〇株

この価額 二七、七九〇円

(この株式のうち三〇〇株は昭和三三年六月二六日一株六一円で売却、残り五〇〇株は同月二八日一株六二円で売却し、手数料等差引合計四七、七九〇円を相手方セイが取得したので、本件においてはその換金当時の代価をここに計上することとする。なお増資払込金二〇、〇〇〇円は、これから差し引く。)

(昭和二九年九月○日当時の価額 二六、〇〇〇円)

(六)  株式会社田部製作所株式二五〇〇株

この価額 二一八、三五〇円

(ただし、この価額は税務署の評価額を参考にして認定したもの。)

(七)  電話加入権(新潟○-○三○五)

この価額 七〇、〇〇〇円

(八)  家財道具 若干

(この価額については、計上するのを省略する。)

(三)ないし(八)の価額合計 三二二、五八一円

(一)ないし(八)の価額合計 二、六一二、五八一円

(昭和二九年九月○日当時の価額合計 二、三七〇、七九一円

なお、上記宅地二筆、家屋一棟および電話加入権は、その家屋に附帯する一切の機械什器、器具(これらはいずれも下記貸借当時のものが現存しないという。)とともに、昭和二六年二月一六日所有者被相続人と賃借人株式会社田部製作所との間に、賃料は定めず、賃貸借の目的物件に関する費用を賃借人が負担支払をして賃料に引き直すむねの約定で上記賃借人が借り受けているものである。

三、相続財産の中から支弁されるべき相続財産に関する費用等はつぎのものである。

(一)  固定資産税

これは、前記貸借により株式会社田部製作所の負担に帰するものであるから、ここに計上すべきものはない。

(二)  家屋修理保存費

これも、前記貸借により株式会社田部製作所の負担に帰するものであるから、ここに計上すべきものはない。

(なお本件遺産たる家屋については、上記保存修理を兼ねて、数回にわたり若干の改良工事が施されているが、その施行者は一応上記株式会社田部製作所であると認められるので、この改良工事の結果たる価格の増加については、本件遺産分割手続とは別個に、当該権利者からその利益の帰属者に対し償還を求めるべき関係のものとする。)

(三)  葬式費用

これについては、その額がつまびらかでないので、ここに計上するのを省略する。

四、各相続人について

(一)  申立人田部五郎は、もと東京で洋服仕立をならい、昭和一九年三月被相続人のむこ養子となつて(同年四月○日縁組届出)、被相続人と同居し、昭和二〇年六月応召して同年九月に復員し、昭和二一年春ごろから現住所で洋服仕立業を始めたものであるが、昭和二二年一〇月ごろから被相続人および相手方セイ等と申立人夫婦とは食事を別にし、住込見習職人一名通勤職人一名を使用し、上記職業による収入は一月約一五、〇〇〇円ぐらいであり現存遺産たる家屋の階下北側の三畳二間および二階八畳一間を使用している。

(二)  申立人田部進は、生後まもなく被相続人の養女となり、昭和一九年上記のように申立人五郎と婚姻したものでその婚姻にさいして被相続人から、タンス一棹、布団二人前その他の嫁入道具一そろえ(これを昭和二九年九月当時の評価に引き直して、約五〇、〇〇〇円と推定する。)の贈与を受け、申立人五郎との間に二男一女をもうけている。

(三)  相手方田部セイは、昭和二〇年六月被相続人の後妻に迎えられた(同年一二月○○日届出)もので、その間に長男元市(相手方)、長女とみ(相手方)をもうけたが、被相続人の死亡後株式会社田部製作所の代表取締役となり、昭和三一年四月一一日青田正次(大正一一年二月○日生)と妻の氏を称する婚姻をし、

(正次は、昭和三一年四月三〇日以降代表取締役となり同年六月○日相手方元市、相手方とみを養子とする縁組届出。)

遺産家屋内に居住、

(女中一名、職人二名同見習一名ないし二名住込、職人夫婦一世帯居住。)

していたものであるが、昭和三四年四月同所を空けて同市○○町一丁目二番地に引き移つたものであつて、

自己名義で

新潟市○○町一丁目二番三

宅地 一九六坪五合

を所有(昭和二七年八月一一日取得登記)し、被相続人の死亡による生命保険金(受取人田部セイ)一、〇二九、三〇〇円を受領した。

(四)  相手方元市および相手方とみはいずれも、未成年者で相手方セイと同居し、元市は、

株式会社○○銀行○○支店定期積金 一〇万円口

六四、三二〇円

同銀行○○普通預金 四、二七一円

株式会社○○銀行○○町支店普通預金 三二〇円

計 六八、九一一円

の資金を、とみは、

株式会社○○銀行○○支店定期積金 二〇万円口

一六六、一六〇円

の資金をそれぞれ被相続人から生前贈与を受けた。

以上の事情のもとにおいて、民法第九〇三条に定める共同相続人の特別受益を算入した各当事者の相続分を算出すると、

同条所定の相続財産とみなされるものは

被相続人が相続開始当時に有した財産の価額 二、三七〇、七九一円

申立人進の受領分 五〇、〇〇〇円

相手方元市の受領分 六八、九一一円

相手方とみの受領分 一六六、一六〇円

計 二、六五五、八六二円

であるから

申立人五郎の相続分(六分の一) 四四二、六四四円(円未満四捨五入)

申立人進の残額相続分 三九二、六四四円(同右)

相手方セイの相続分(三分の一) 八八五、二八七円(同右)

相手方元市の残額相続分 三七三、七三三円(同右)

相手方とみの残額相続分 二七六、四八四円(同右)

計 二、三七〇、七九二円

となる。

そこで以上のとおり算出された相続分(残額相続分)の割合をもつて本件遺産を分割すべきものであるところ、ここに問題となるのは遺産物件はいかなる時期の評価額を基準として現実に分割すべきものかということである。民法第九〇九条には遺産の分割は相続開始時にさかのぼつてその効力を生ずると規定されていること、同法第九〇四条には残額相続分算出の対象となる贈与の価額は相続開始時をもとにして定めると規定されていることからして分割の価額は相続開始時をもつてその基準とすべきものであるとの見解があるが、(一)分割の対象となるものは原則として現に存在する財産またはその代償物であつて、遺産物件が分割の時までに滅失してその代償物も存在しないときは当然分割の対象から除外され、また相続開始後に自然的事実により増大した物があるときは当然その増大したものの全部が分割の対象となるべきものであること、(二)分割の対象となつた物件中に債権があるときは各共同相続人は分割時における債務者の資力を担保する責任があり(民法第九一二条)、債権取得者の受ける利益は分割時が基準となるべきものであること。(三)各共同相続人は、他の共同相続人に対して売主と同じくその相続分に応じて担保の責任があり、(民法第九一一条)、その瑕疵は相続開始前から存在していたものにかぎらないこと、(四)家庭裁判所が遺産の分割のために必要があると認めて遺産の全部について換価処分をさせた場合(家事審判規則第一〇七条)には、当然換価時をもとにして定められた換価代金が分割されるものであること、(五)家庭裁判所が遺産分割の方法として共同相続人の一人または数人に債務を負担させて現物をもつてする分割に代えた場合(家事審判規則第一〇九条)には、その債務の発生ないし債権取得者の利益はその効力において相続開始時にさかのぼることはできないものであること、(六)また、家庭裁判所が遺産の一部についてのみ前記のように換価処分をさせ、または共同相続人のある者に債務を負担させた場合において、残余の財産に対してのみ相続開始時の評価を採用することは、全部についての総合計算をするうえに価値上の錯乱をきたすおそれがあること、その他の理由により、ここに分割すべき遺産の評価は分割時を基準とすべきものと解する。

よつて本件遺産の時価総額たる二、六一二、五八一円について、前記算出の相続分の割合をもつてこれを配分すれば、

申立人五郎は、

2,612,581円×(442,644/2,370,792) = 487,788円(円未満切上)

申立人進は、

2,612,581円×(392,644/2,370,792) = 432,688円(円未満切捨)

相手方セイは、

2,612,581円×(885,287/2,370,792) = 975,575円(円未満切捨)

相手方元市は、

2,612,581円×(373,733/2,370,792) = 411,849円(円未満切上)

相手方とみは、

2,612,581円×(276,484/2,370,792) = 304,681円(円未満切捨)

計 2,612,581円

となるものであつて、本件遺産に属する物または権利の種類および性質、各当事者の職業その他本件にあらわれた一切の事情を考慮するときは、つぎのように分割もしくは債務の負担をするのが相当である。

(一) 別紙目録記載の家屋番号○○町六一番の家屋は、主文一の(一)掲記のように二個に分割し、その一は申立人両名の共有、他は相手方三名の共有とすること。

(二) 別紙目録記載の六〇番二の宅地は、主文一の(二)掲記のように二個に分割し、その一は申立人両名の共有、他は相手方三名の共有とすること。

(三) 別紙目録記載の六〇番一一の宅地は、主文一の(三)掲記のように相手方三名の共有とすること。

(四) 別紙目録記載のその余の財産は相手方セイの単独所有またはその取得分とすること。

(五) 以上の配分による価額の過不足については、金銭の支払債務を負担させて現物をもつてする分割に代えること。

以上のことを価額を示して各当事者別に明細にすると、

(一) 申立人五郎の取得分

家屋の共有持分(申立人進と共有) 二一五、〇〇〇円

六〇番二宅地についての共有持分(申立人進と共有) 一〇四、六二四円

相手方セイの負担する金銭支払債務 一六八、一六四円

合計 四八七、七八八円

(二) 申立人進の取得分

家屋の共有持分 二一五、〇〇〇円

六〇番二宅地についての共有持分 一〇四、六二四円

相手方セイの負担する金銭支払債務 一一三、〇六四円

合計 四三二、六八八円

(三) 相手方セイの取得分

家屋の共有持分(相手方元市、とみと共有) 四七三、〇〇〇円

六〇番二宅地についての共有持分(相手方元市、とみと共有) 一五五、六〇三円

六〇番一一宅地についての共有持分(相手方元市、とみと共有) 二七九、三一〇円

動産等 三二二、五八一円

相手方元市、とみの負担する金銭支払債務合計 二六、三〇九円

小計 一、二五六、八〇三円

申立人両名に対して負担する金銭支払債務(マイナス) 二八一、二二八円

合計 九七五、五七五円

(四) 相手方元市の取得分

家屋の共有持分 二一五、〇〇〇円

六〇番二宅地についての共有持分 七〇、七二九円

六〇番一一宅地についての共有持分 一二六、九五九円

小計 四一二、六八八円

相手方セイに対して負担する金銭支払債務 (マイナス)八三九円

合計 四一一、八四九円

(五) 相手方とみの取得分

家屋の共有持分 一七二、〇〇〇円

六〇番二宅地についての共有持分 五六、五八三円

六〇番一一宅地についての共有持分 一〇一、五六八円(円未満切上)

小計 三三〇、一五一円

相手方セイに対して負担する金銭支払債務 (マイナス)二五、四七〇円

合計 三〇四、六八一円

となるべきものとなる。

よつて手続費用の負担につき、非訟事件手続法第二六条第二七条第二九条、民事訴訟法第九三条を適用して、主文のとおり審判する。

(家事審判官 野本三千雄)

別紙遺産目録 省略

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例